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更新日 2011-01-30 | 作成日 2001-01-10

小笠原小説:ボニン・ブルー

1日目 出航

本格的な海のシーズンを目前に、本州はまだ梅雨前線に覆われている。
冷たい霧雨の中、雨と排気ガスの匂いが東京湾に停滞している。 そんな東京湾の奥で、ドラの音とともに竹芝桟橋をゆっくり離岸していくおがさわら丸、通称おがまる。 期待と不安を抱えた乗客を乗せて、レインボーブリッジを下から見上げ、ゆっくりと東京湾を南下し始める。
ざっと見渡した感じ、30代から初老にかけての乗客が多いようだ。 しかも夫婦以外の乗客は一人旅らしき姿が目に付く。
それもそうだ、社会人になり仕事も遊びも同僚とが多くなる。自然と旅行も仕事仲間と行くことが多くなる。 ところが、小笠原旅行は最低でも6日間の旅程。同じ職場で友人を誘って仕事を休むには、上司もうんとは言えない。
そんなわけで私もひとりでおがまるに乗っている。 海はまだ茶色く濁っている。

2等船室に入って場所を確保すると、船内をぐるっと散歩したり、食事をとったり。
浦賀水道をゆっくりゆっくりと、左に千葉の房総半島、右に神奈川の三浦半島を望みながら、湾口へと向かう。 海は深い緑色に変わってきている。

DSCF0773.JPGDSCF0775.JPG
夕暮れ時にはちょうど雨も上がり、甲板からは太平洋に沈む夕陽が見える。


夕陽が残した余韻が消え去ったあとの紺色の空には、金星と月が輝いている。
東京からも遠ざかり、暖かい南風が、どこかこの先にある小笠原の存在を思わせる。 甲板では持ちこんだウクレレを弾く女性の姿も。 隣に座って聞いているうち、集まってきた人々と小笠原の話題になる。 みんな話し相手を求めていたようだ。
「小笠原は何回目ですか?」
「5回目です」「初めてです」
そんな会話が、ここでは「こんにちわ」の代わりに使われている。 甲板で受ける風が冷たく感じてきたので、船内に戻った。
夕食後早めの就寝。


★この日記風小説は、事実を元にしたフィクションです。写真の人物はストーリーとは無関係です。★
★小笠原の写真は、「旅の風景」にも掲載しています。そちらもお楽しみください。