にーちゃんのMake a nice day

小笠原小説:ボニン・ブルー

3日目 海の贈り物

ミスパパヤというボートに乗りこみ、南島を目指している。 父島を一周し、イルカと泳ぎ、南島にも上陸できるという贅沢なツアーに参加した。 参加者は、20名ほど。まだ10名以上乗れるらしい。大きな白いボートだ。
透明なゼリーのように澄んだ海では、海底が手に取るように見え、海の深さが感じられない。 ボートの後ろを見れば、ボートの作る波にじゃれるように泳ぐハシナガイルカの群れ。
40~50頭はいるだろうか?
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波に乗って遊んだり、舳先にまわりこんで競争したり、突然の来訪者を遊び相手に変えてしまう。 歓声があがる。拍手が起こる。
ハシナガイルカは英名スピナードルフィン。くるくる回るスピンが特技だ。 すごい勢いでジャンプしたと思ったら、その体をくるくる回転させながら水に飛び込む。 そのたびに乗客は興奮に歓声をあげている。
出発前にキャプテンが「たとえイルカたちに出会えなくても、この海のどこかにイルカたちがいるんだと思って楽しんでください」そう言っていた。 合えなかったら嫌だなって思った。
でもそんな心配も吹き飛ばし、あのイルカたちはサーカス並みのジャンプ大会だ。 カメラ持って来れば良かった。

イルカのジャンプを満喫したあと、ボートは島に沿ってゆっくりと走る。 「これが枕状溶岩です」キャプテンが島の案内をしてくれている。
左手に見えてきた大きな崖には赤いハートの形が見える。ハートロックと呼ぶそうだ。
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すごく美しいビーチを見た。ジニービーチと呼ぶビーチらしい。歩いて行けるが、片道2時間はかかるらしい。
この炎天下、水のペットボトル4リットルは必要よ。と近くにいた女性が教えてくれた。彼女は、水色のビキニ姿で、ボートから足を海に向かって投げ出すように座っている。去年、島で仲良くなった友人と2人で歩いたらしい。
「二人して全裸で泳いだのよ」
「・・・」


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そのあと、全員で沈水カルスト台地という世界にも2箇所しかない珍しい地形の南島に上陸した。 ここは映画「紅の豚」の秘密基地のモデルになったところでもあり、今回の旅の目的のひとつでもあった場所だ。まわりはカツオ鳥が飛び交い、島にある扇池という自然のプールは、トンネルで外海と繋がっている。 ガイド無しでは上陸も許されない島で、その美しさはこの世のものとは思えない。もち、あの世ではない。

DSCF0638.JPG約千年前に絶滅したヒロベソカタマイマイという貝の半化石が散らばっている。私はハッと目を見開いた。そのうちの一つが動いている。絶滅したはずなのに。恐る恐る手にとると、中にはヤドカリ。



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南島を満喫したあと、海中公園というそれはもう竜宮城でもこれほどは?ってくらい美しい場所で、熱帯魚たちに囲まれてボートの上で昼食と休憩。食事を終えた人たちが海に飛び込み、魚たちと戯れているのがデッキからよく見える。


1時間ほどの休憩ののち、キャプテンが「はい、イルカが出たようなので、移動しましょ~」と言った。 どうやら、先程のハシナガイルカとは別種のハンドウイルカが近くに現れたらしい。 島と島の間を抜け、水平線に向かって進んでいると、「はい、1時の方向です。ハンドウイルカの群れがいますね」とキャプテン。
ボートの上では方向を時計の針で表す。正面が12時で、右が3時、左が9時だ。 1時だからほぼ正面のちょい右と、目をこらす。 いた!背びれが見える。
1つ、2つ、3つ。
目がなれてくると、たくさん背びれが見えてきた。 20~30頭はいるようだ。みんなデッキから身を乗り出してイルカの背中を見つめている。
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「はい、イルカと泳ぎたい方は準備してくださ~い」
キャプテンが言うや否や、みな後部デッキに移動した。



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イルカと並んで泳ぐ。潜ってみる。下にもイルカ、横にもイルカ、上にもイルカだ。 もう鼻血も出んばかりに大興奮。 小さいイルカはたぶん子供だろう、近付いてきて、「お前、泳ぎ下手だな~ついてこいよ、教えてやるよ」そう言った。気がした。いや、やっぱりそう言ったと思う。
群れのまん中に飛び込んで、一緒に泳いではイルカたちに取り残され、ボートに拾われる。そんなことを6回ほど繰り返すと、イルカたちも飽きたのか、下手な泳ぎに愛想がついたのか、どこかへ泳ぎ去ってしまった。 デッキの上はみな興奮状態で、イルカと目が合っただの、手をつなぎそうだっただの、城ミチルがいただの、騒ぎ合っている。

もうこれで、十分に小笠原を満喫できた。きっと誰もがそう思っていたに違いない。 ボートの無線から、もう1艘の小型ボートからの声が流れ、誰もが息を呑んだ。
「父島の東にマッコウクジラが数頭、ブローをあげています」
キャプテンが無線のマイクに向かって「了解!」と返事を返すと、ボートは大きく白い弧を描きながら東へ向かい始めた。
マッコウクジラが斜めに潮を吹く、この潮をブローと呼ぶ。キャプテンの受け売りだ。 最初のブローは水平線近く、ボートの11時の方向に上がった。 近付くと、尾びれを水面にVの字に上げ、海底深く潜っていくところだった。

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残念がる間もなく、3時の方向でブロー。そちらに向かう。9時の方向にもブローが見えている。 周りはマッコウクジラだらけなんだ。客たちはデッキからあっちこっちに指をさし興奮状態だ。
親子のクジラに近付き、しばらくボートは並走した。母らしきクジラが子供とボートの間に入って来る。 子供を守っているんだ。 そうして母クジラがシッポを立てて海底に潜って行っても、子供は潜れずにその場で浮かんでいた。 別のブローが近くで上がったので、ボートはそちらへ。
そんな調子で、8頭のクジラを間近で観察できた。
いつのまにか、太陽は父島の向こう側に隠れている。 潮風が少し冷たい。焼けた肌には気持ちよい。 今夜は興奮と日焼けの痛みで眠れないぞ、きっと。

島に戻った私達は、ボートで仲良くなったメンバーと夕食を摂り、誰かの提案でウェザーステーションって所まで歩くことになった。
ウェザーまでの道のりは上り坂を30分。決して楽ではないけど、みんなで歌いながら登った。
ウェザーのウッドデッキに仰向けになり、夜空を見上げた。
どこからどこまでが、天の川?って誰かが聞いた。
夜空すべてが天の川になったみたいに、隅々まで星に埋め尽くされていた。 みんな静かに星空をながめた。


★この日記風小説は、事実を元にしたフィクションです。写真の人物はストーリーとは無関係です。★
★小笠原の写真は、「旅の風景」にも掲載しています。そちらもお楽しみください。